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〜 朱東海氏(海口市科学技術及び情報産業局局長兼同市知的財産局局長)に聞く 〜


  「中国のハワイ」とも称される中国最南端の海南島に海南省があり、1988年に設置された中国で31番目の省である。同省は中国唯一の熱帯気候に属し、台風の常襲地域としても知られるが、同省の省都は海口市にあり、中国最大の経済特区である海南島の北側に位置し、南シナ海に面している。

  去る2月12日(火)夕方、独立行政法人国際協力機構(JICA、以下同) Tokyo International Centre にて、中国科学技術省に選ばれた唯一の地方若手官僚の1人として来日中の、 海口市科学技術及び情報産業局局長兼同市知的財産局局長の、朱東海氏に「海口市の最新事情や日本でのご感想」について聞いた ( 聞き手: 編集長、張輝 )。
   朱東海氏

 1969年7月生れ、博士(清華大学)。2001年7月四川省眉山市東坡区区長補佐。2001年9月清華大学コンピューターソフトウェア学院ポストドクターとして研究に従事し、2003年5月清華大学継続教育学院遠隔教育部部長、遠隔教育研究所副所長。

 2003年10月海口市人民政府副秘書長(日本でいう「事務局次長」に相当)。2004年7月海口市秀英区政府副区長、2006年9月海口市政務服務センター常務副センター長。2007年3月海口市科学技術及び情報産業局局長兼同市知的財産局局長。




Q1 今回日本に来られた経緯やご自身の略歴についてお教え下さい。

A1 2008年1月14日(日)に、JICAの某国際研修プログラムの参加者として東京に来た。1ヶ国1人とのことで、中国からは私だが、全部で8ヶ国から来た多様な経歴を持つ8人である。主な研修内容は日本総務省及び関連の業界団体が企画された情報通信事情や標準化戦略なども含むプロジェクトマネジメント等についてであるが、先生方による講義、NTTや東京都庁などへの見学、参加者による討論や発表、加えて週に数回の日本語の勉強など、実に豊富で充実な毎日を過している。
 
  私は漸江省出身であるが、大学卒業後の修士課程及び博士課程は北京の清華大学で過した。大学から博士課程まで、土木、管理、コンピュータという三つの専門領域で勉強し、横断的な研究に取組んでみる機会を得た。院生時代、私は「研究、社会活動、自立的な生活」という三つの側面において「第一」を目指して頑張り、色々と貴重な経験を得た。海南省政府のタイムリーな人材活用政策に惹かれたこともあって、2003年に周辺の反対を無視して海口市に飛んだ。
  私の略歴をご覧になっても分かるように、海口市に行ってからもまたいくつかのポジションで職務を遂行する機会を得て、海口市の更なる発展や農村の電子化や現代化、自動車、食品、繊維等のハイテク産業化はもちろん、科学技術や知的財産を活かした情報通信等の産業振興に取り組み、毎年新しいアクションを起こし続けている。多様な関係の把握や決断のタイミングなど、いま思えばやはり副区長という「副」からのスタートはよかった(〜)。


Q2 海口市や同市科学技術及び情報産業局並びに知的財産局とは?

A2 海口市は、同じく海南省の観光名所の一つである三亜市まで約280キロの距離で海南省の省都であり、海南島の政治、文化、経済の中心地となっている。中国最大の経済特区である海南島の北側に位置し、南シナ海に面する地域であることから、熱帯海洋気候に属し、年間を通じて温暖な気候で有名である。椰子ジュースやマンゴージュースなど地元の特産物の加工メーカーが有名であるとよく言われるほか、手作り工芸品や熱帯果物一般は実に上手い。

  海口市科学技術及び情報産業局(略称「科信局」)並びに知的財産局は海口市人民政府下の行政機関の一つであり、海口市における科学技術、情報産業、及び知的財産という三つの領域の方針政策、地方法規、発展計画、科学技術基地建設計画、科学技術のイノベーション体系、ハイテク産業や研究成果の評価や産業化方策等を策定し、情報技術企業の認定や市場監督、ネットワークのセキュリティー管理、知的財産マネージメント等を実行し、及び左記さまざまな業務の国際交流や国際協力を組織し参与することがミッションである。
 
  全国的にも、科学技術、情報産業、及び知的財産といった三つの領域を一体的に捉えた上で取組むのは珍しいかもしれない。


Q3 海口市におけるイノベーションや知的財産への取り組みについてお教え下さい。

A3
 私が局長に就任後、とくに当市における「知的なイノベーション体系の構築」に関し、主として次の五つの大きなアクションを起こし続けている。
 
  第一に、科学技術プロジェクトに対する評価に知的財産関連の指標を取り入れること。当市の産学研関係者が科学技術プロジェクトについて申し込む場合、申請書類及びその後の実行において知財マネジメントのキーワードやその具体的な内容の有無が重要な評価指標の一つにした。

  第二に、行政機関、農村、ライフエリア、学校及び企業の全てを対象にした知的財産の啓蒙や推進戦略の実行。知的財産は確かに研究者や技術者に密接に関わるが、しかしそれだけではなく、各層の指導者、各種の行政機関の後押しの下で、都市と農村の協働や少年達の参加なども不可欠であり、ライフエリアや家庭でもそれを知れるように「知的財産の全面的な発展計画」の実現を目指して鼓動し、「海口市の知的財産大合唱」を形成させる。

  第三に、知的財産の創造者や所有者に元気付けること。つい最近、われわれは「第1回海口市特許ベスト15」を選出した。現在はそれをサイトにて公示し意見聴取の段階にあるが、もし各関係者からの異議がなければ該当者に「海口記録」という証書等を与えることにし、その後、その記録を破ったケースが出た場合は再度奨励する証書や賞金を与え、知的財産の創出を加熱させる。

  第四に、知的財産の移転等に資するプラットフォームを構築すること。とくに青少年の発明や創造への情熱を維持し強化し続けるために、戦略的な視野を持つ企業家等を動員し、制度を持ってリスク基金を吸収し、青少年、研究者及び技術者の持続的なイノベーションを支持し、より良い成果の創出を後押しするよう、青少年の創造的成果対しての「有効な出口」を提供できるように、市場化や産業化へのマッチングプラットフォームを構築する。

  第五に、知的財産行政に関する各種の制度化を強化すること。最近、当市において特許訴訟が増えており、関係者の関心を集めている。「効率的」と言われる知的財産の行政保護制度が効果的に運用されるように、関連の知財行政サービスを一層強化するとともに、研究者や技術者などのイノベーションを徹底的にサポートし、知的財産の法的権益を保障する。


Q4 海口国家ハイテク産業開発ゾーンの優位性といえばどういうものか?

A4 海口における「国家ハイテク産業開発ゾーン」の優位性といえば次の四つが言える。第一に資源的な優位性である。海南省の海洋資源、森林資源、熱帯農業資源等が非常に豊富であり、それらの資源と海口国家ハイテク産業開発ゾーンの投資環境と有機的に連動していけば、競争力の強い産業を形成する可能性が非常に高いだろう。
 
  第二に位置的な優位性である。既に述べたように、海口市は海南省の政治、文化、経済の中心地となっており、香港や台湾、また東南アジアにも隣し、大陸と東南アジアを繋ぐ重要な交通ツールともなっている。海口市に既存する機能も活かしていけば、低コストでオープン型の経済を発展するのに好都合といえる。
 
  第三に生態環境的な優位性である。海南省は全国初の「生態モデル省」の建設を戦略目標に置き、大気汚染や地下水の品質は世界または国家の一流にある。第四に政策的優位性である。海南省及び海口市が制定した一連の優遇政策は海口国家ハイテク産業開発ゾーンに、とりわけ電子情報産業、バイオ製薬産業、海洋関連産業、環境保護産業の発展に適していると考える。


Q5 もう少し東京での研修生活を終了し帰国されるが、ご感想は?

A5 大変有難い機会を得たと実感し、講義、見学、討論や発表、そして日本語の勉強など、いずれも忘れられない体験となって、心より感謝している!本当に。全スケジュールの内容設定や精細さに感心し、自分の視野が大きく広げられたことや、時代的なトレンドの一角から連想した海口市情報産業等のビジョン、研修コースで出会えた他国からの参加者方々はもちろん、それ以外各場面で出会えた日中多分野の方々、知見と友情の響き合う時々、そして自分の目で「今日的な日本」の一角を見たのは非常に良かったと思う。今後、何らかの形で中日の相互交流を継続し、当方における関連の取り組みに積極的に活かしていきたい。


【インタビューを聞いて】

  朱氏は去る2月16日(土)今朝、滞在された Tokyo International Centre を経ち、1ケ月の滞日生活を終えて帰国された。2月17日午後、中国科学技術省大臣万氏が海口市ハイテク企業を視察する(下図参照)際も、また2月21日、中国科学院アカデミー・メンバー6氏が紅樹林自然保護区を視察する際も、朱氏は海口市政府の指導者とともに、万大臣やアカデミー・メンバー方々の全視察スケジュールを同行し、案内や説明などを行った(同局サイト)。


  インタビューの際、地方政府の要職に居られる一方、海外で高級研修を受けるのは関係方面からの高い期待が実感されると同時に、1ケ月も持ち場を離れて問題はないのか、と筆者は聞いた。「それは大丈夫ですよ!なぜなら、いまはインターネット時代だからであろう。必要な業務連絡や調整、指示などはメールや電話でいつもどこでも行えるので、東京に居ながら海口市及び当局の状況はよく把握している・・・。」と同氏。毎日何時間で寝ていたのかを知らないが、とにかく「走れるときにどんどん走る!」という同氏がとれる睡眠時間は決して多くないだろう。
 
  中国に出張する際も、東京に居るときも、ときに地方政府の官僚等にお会いすることがあり、朱氏のような方はいままで出会ってきた多彩な方々とはまたも違ったタイプに属されると思っている。中国名門大学での勉強や研究などを通じて独特な人的なネットワークを有し、ロジック的な思考が強い一方、若いのに多様な経歴を通じて横断的な経験を積み、型に嵌らない次々とアイディアを連発しつつ実際のアクションも起こし続ける若手官僚かつ知的な実務家の一人だと感じさせられる!

( 聞き手: 編集長、張輝 | 写真(C):海口市政府網等 )



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