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 Q&A


ビジネスモデル「探険」談 By 張 輝
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第2回 ビジネスモデルを巡るさまざまな見解


 恐らく、「ビジネスモデルとは何か」について悩まれている方は少なくないであろう。実は「ビジネスモデルとは何か」としばしば尋ねられる筆者も時に似たような心境を持つことがあり、これが前回でいう「解るようで解らない未知の部分」に該当する部分と言えるかもしれない。

 いままで、「ビジネスモデルとは何か」については、「ビジネスモデルとはビジネスの設計図である」とか、「ビジネスモデルとは『差別的優位性をもった市場への仕掛け』である」、「ビジネスモデルとは端的に表現すると、『儲けを生み出すビジネスのしくみ』」である」、「ビジネスモデルとは『顧客満足と利益を生み出す事業の仕組(事業システム)』である」など、議論されてきた定義を見渡せば枚挙に暇がない。中でも、日本で言う「ビジネスモデルとはビジネスの設計図である」という松島説は、基本的な考え方として多くの方々に共感されていると言えよう。

 一方、具体的な構成レベルという観点から論じるなら、たとえば、「顧客」「価値」「経営資源(チャネル、ノウハウなど)」に視点を置く「三要素」説、「顧客価値提案」「利益方程式」「主要経営資源」「主要業務プロセス」を枠組みとする「四つの箱」説、「市場モデル」「顧客モデル」「競争モデル」「アプリケーションモデル」「収益モデル」という「五つのサブモデル」説を例として挙げることができる。これらの説に関する具体的な比較研究は他の原稿に譲りたいが、それぞれ実務的に貴重な示唆が与えられている点をここで付記したい。

 また、「ビジネスモデルとは」に関する多様な議論の中で、視点、アプローチまたは方法論に差はあるものの、それらの定義から考えうる類似の用語として、(ビジネスの)仕組み、ビジネスシステム、ビジネスデザイン、事業設計、事業モデル、事業化構想などが挙げられる。それぞれの用語の定義によって実質的に共通点があったり微妙に異なる点もあると思われるが、これは経営学のアプローチや経営工学のアプローチ、また理論的なアプローチや実務的なアプローチなどといったアプローチの相違に由来するものではないかと考えられる。

   

 「多くの人が無造作にビジネスモデルについて語るが、誤った解釈は誤った行動を生み出し、最悪の場合、衰退へと向かわせかねない」という、ハーバード・ビジネス・スクールの競争戦略研究所のシニア・アソシエートであるジョアン・マグレッタ氏の数年前の論考が今年のハーバード・ビジネス・レビューの8月号に再掲された。「ビジネスモデルは、戦略でもなければ、戦術でもなく、また改善計画や行動様式でもない。未知なる価値を創造するシステムのこと」であり、「端的に言えば『物語』、つまりどうすれば会社がうまくいくかを語る筋書きである」と同氏は述べている。

 ここでいう「会社がうまくいく」ということについては、一つの企業レベルを指しているだけではなかろうと筆者は理解している。一企業に一つのビジネスモデルというより、一企業内で多角化している事業やサービスに応じて存在する多彩なビジネスモデルも内に含まれているであろう。ここでいう「会社がうまくいく筋書き」というのは、松島説でいう「ビジネスの設計図」とは本質的に共通してはいないだろうか。

 第1回で述べたとおり、ビジネスの特性、戦略、視点、切口、業種、段階、プロセス、機能などにより、そのビジネスモデルもさまざまである。このことは、たとえば、世界を驚かせる日本発のポッドキャストビジネスモデル、メガネ業界で生まれたネットチェーンという新しいビジネスモデル、1000円カット専門店の秀逸なビジネスモデル、スマートフォン市場における垂直統合型ビジネスモデル、近年見えてきた電子書籍のビジネスモデル、快進撃を続けるAKB48流ビジネスモデルなど、この「ビジネスモデルの輪」の「事例広場」だけを通してみても明らかである。

 一方、この「ビジネスモデルの輪」の「編集後記」にも当初から示しているように、「ビジネスモデルの輪」については、「ビジネスモデルに関する様々な情報をリンクしているが、これは単なる情報の集積化ではなく、議論の具現化を図ろうと意図するものである。但し、それぞれの情報元で用いられる『ビジネスモデル』という言葉は、必ずしも共通の定義に基づくものではないことにご留意いただきたい。」と述べてきた。

 ビジネスモデルとは何か、普遍性を追求する学問的な観点から考えた場合、その理論の確立が一層求められているところであろうと感じられるが、具体性を重視する実務的な観点から考えた場合、上記に例示的に提起した多様な説にも示されているように、多様な視点、視野、視座が存在するという点を踏まえたうえで、物事を立体的に捉えながら、ケースバスケースで探求し、事業を定義し、「物語」を構想していくことが必要となることに間違いはないであろう。

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