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 Q&A


ビジネスモデル「探険」談 By 張 輝
>> 連載目次

第1回  なぜビジネスモデルを探険するのか?


 筆者とビジネスモデルとの縁は、吉村克己著『iモード ビジネスモデル インパクト』(H&I、2000年8月)が注目を集めていた今から11年ほど前に遡り、「製品だけではなく、ビジネスモデルの優位性の構築こそが真の競争力に直結する」と言われ始めた頃である。間もなくして私はビジネスモデル学会に入会し、続いて運営委員の1人となり、学会長松島先生をはじめ多彩な運営委員等の方々との多様な交流の機会を得た。多くの方々と時には美味しいお酒や遠慮ない会話を楽しみながらも、この激動の時代の波を見据え、呑み込まれないように努めたいと感じている。

 ところで、この「ビジネスモデル『探険』談」は、関係者が「ビジネスモデルの輪」を編集する過程で時に悩んだテーマや読者からのお問合せ、筆者が関係している教育や実務などのテーマにも触れながら、同じ関心を持つ方々と交流するための随筆のようなものである。これは筆者による研究論文の発表ではないので、拙稿含め、研究等については関連の学術誌をご参照されたい。また、同「探険」談は一個人の未熟な思考メモであり、ビジネスモデル学会をはじめ、筆者が所属する諸組織の見解を述べるものではないことにもご留意されたい。読者の方々からご指摘やご批判、コメント等をお寄せ頂ければ有難いと思っているため、ぜひ遠慮なくご教示頂きたい。

 さて、一時期、新聞、雑誌、書籍、セミナー等において、「ビジネスモデル」よりも「ビジネスモデル特許」という言葉が頻繁に登場していたため、多くの方が想起するキーワードの一つであろう。そして米国と同様、日本においても当時あれほど沸いていた「ビジネスモデル特許」の議論は徐々に下火になり、さらに「ビジネスモデル特許はそもそも無用」というような懐疑的見方から、「ビジネスモデルもそれほど重要ではない」という見解も散見されるようになった。

 そもそも、なぜビジネスモデルという用語がこれほどヒットしたのだろうか。筆者は以下の三つの要因があるのではないかと考えている。一つ目は、日本の高度成長期が幕を閉じ、多様な企業が生き残りの生命力を考究する中、事業を取り巻く社会的な環境の変化はもちろん、下表で示したように、成功企業の製品力ではなく経営力、すなわち「ビジネスモデル」そのものに視点が置かれるようになったことである。二つ目は、前述したように、各種メディアが一時期、「ビジネスモデル特許」という形で、脅威的(究極的)な知的財産として伝えたことによる拡大効果である。そして、三つ目は、ビジネスに限ることでないが、モデルがあれば分りやすい、モデルがあればマニュアル的に考えられるという、「モデル」に対する一種の期待によるものではないかと思われる。

表 主なビジネスモデル/ケースの変革

出典: 寺本義也・岩崎尚人『ビジネスモデル革命』(生産性出版、2000年)

 ちなみに、筆者は経営コンサルタントの1人として、衛星データ、IT、バイオ、省エネ、コンテンツ等、大手企業向けの新規事業開発や技術の商品化また事業化などの業務に携わる中で、「事業化構想」と称される業務にも多く取り組んでいる。「事業化構想とはビジネスを設計することである」とも解されるが、これを「ビジネスモデルとはビジネスの設計図」とする松島説(松島先生のビジネスモデルに関する論旨。以後同)に沿って言えば、筆者もビジネスモデルに関わる立場に長年身を置く1人と言えるだろう。

 この「事業化構想」についても、実務的に考える場合には、多様な見方がある。すなわち、新規事業の立ち上げと既存事業の再編、大手企業の事業やサービス開発とベンチャー企業の創立、研究成果の事業化と事業再編の分社化、国内中心の経営と国際的分業を前提に設定したグローバル経営、テクノビジネスや知財ビジネスの展開と流通や飲食サービスの展開、ITを活かした事業といまだにITに縁の薄い事業などである。この「ビジネスモデルの輪」の「事例広場」だけを通してみても分かるように、ビジネスの特性、戦略、視点、切口、業種、段階、プロセス、機能などにより、そのビジネスモデルもさまざまであることはいうまでもなかろう。

 なお、筆者は2004年から立教大学大学院独立研究科の一つである「ビジネスデザイン研究科」で講義を担当してきた。立教大学大学院独立研究科は「伝統的な学問分野にとらわれず、学際的な研究を行う場」とされており、その中で「ビジネスデザイン研究科」は「ビジネスの構想力と戦略的思考を育成・開発するMBAコース」と位置づけられている。ここでも毎年、「真のゼネラリスト」になろうと目指す多彩な社会人の方々と出会ってきた。これまで国家公務員、税務官、経営コンサルタント、メーカ経営者、税理士、弁理士、事業部長、営業マネージャ、システム設計者、コンテンツプロデューサーなどの方々と、ビジネスモデルについても尽きることのない活発な議論を行ってきたものである。

 このように、「ビジネスモデル」というテーマに接する機会もこれまで多々あったが、「ビジネスモデル」には解るようで解らない曖昧さ、言い換えれば曖昧で未知の部分が非常に多く存在するため、ある意味では筆者も常にビジネスモデルを「探険」する1人である。本連載では、「優れたビジネスモデルは好循環を生み出す」(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー、2011年8月号)という意識を念頭に置きながら、いままで探険してきたこと、現在探険していること、今後探険しようと思っていることも含めて、ささやかながら関係者の皆様と共により一層深く考察していきたいと考えている。。

 次回はまず「ビジネスモデルとは」について再確認してみよう。

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