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 投稿  DND 報道 「ビジネスモデル学会 驚異のプレゼン

−ビジネスモデル学会創立10周年記念講演を拝聴して−



参加者: 藤田 岳人(技術経営創研 技術統括部長) 写真: Mr. CK


 去る2010年10月2日、ビジネスモデル学会の創立10周年記念大会が、秋風の吹きぬける東京大学工学部にて開催された。筆者は同学会JCTBF事務局をサポートしていることもあり、本大会のプログラムにずらりと並んだ講演者の方々のお名前や演題を拝見し、まさに「知のシャワー」を浴びるのに絶好の機会であると思い、拝聴の申し込みをした次第である。

 同記念大会のプログラムは、通常の学会での学術発表や講演とは趣を異にしていた。いわゆる研究者が日ごろの研究発表を行う場というより、まさに日々ビジネスの最前線で勝負している実務者達のプレゼンテーションを聴き、参加者皆が自らの実務に活かすべく、情報収集し、議論により確認を行う場でもあった。

 今回は例年のように一般研究発表はなく、特別講演のみであるが、記念大会実行委員長・中谷幸俊氏の司会の下で登壇された特別講演者はいずれも独自の成功体験或いは成功事例を客観的に目の当たりにしたご経験を持ち、その根底にあるビジネスモデルの核となる部分を理解し或いは推し進めてきた方々である。この「知のシャワー」を存分に浴びることとなった1日を振り返ってみたい。


 

 初めに、ビジネスモデル学会の提唱者でもあり、この10年間会長を務められ学会の発展にご尽力されてきた松島克守会長による基調講演が行われた。

 松島会長の講演は、ビジネスモデル研究の俯瞰と活動の総括と題して、この10年間を総括して振り返るものであった。当初、ビジネスモデルの考察は、「ビジネスモデルとは、ビジネスの設計書」「基本設計は戦略モデル」など、工学的な見地からのアプローチに始まったという。そして示された1枚の図は、この30年間に発表された1万件を超えるビジネスモデル関連の学術論文の引用状況をネットワーク分析し可視化したものであったが、そこに、ビジネスモデルを取り巻く様々な視点からのアプローチの存在、連携、ひいては爆発的な発展が見て取れた。

 一口にビジネスモデルと言われるが、極めて多様な理解や現象、アプローチがあり、さらに立場によって様々に変化するものであることが理解された。

 後半は、日本的なビジネスモデルが抱える多くの問題点を独自の視点でご指摘された。グローバル対応が未熟であること、合意形成に時間が掛かること、情報が組織の中でうまく流れていないこと、トップレベルが情報リテラシーに疎いこと、社会変革、価値観の変化についていけてないこと等。これらのうち、特に目立つのは日本の「組織」が抱える問題であり、結果としてビジネスモデルのブレークスルーを妨げているという。これからは「個人」或いは「組織の中の個人」がネット社会にてマルチな価値観を発揮し、新たなビジネスモデルを創り上げていく時代となることを指摘された。


 
  2人目の講演は、東京大学総長顧問、三菱総研理事長であり、菅内閣の日本新成長戦略実現推進会議有識者メンバーでもあられる、小宮山宏先生によるもので、エネルギー問題の立場から、日本がもつべきビジネスモデルを示された。

 先進国を「人口や人工物が飽和」した社会と捉え、車やセメントの消費量などを人口あたりの指標に変換したグラフでは、面白いように「飽和」の傾向がうかがえた。これに基づくと、先進国では車の所有は2人に1台程度となり、今後例えば中国が今後先進国として成熟していく間、5-10年の間に5000万台売れる市場として存在するであろう、という予測を立てることができるという。

 一方、省エネや低炭素排出がうたわれる今後の世界において、「技術が、エネルギー効率を上げる」という視点が必要であると語られた。「ビジョン2050」と題して、「2050年までに、エネルギー効率を3倍に、再生可能エネルギーの利用を2倍にし、物質循環システムを確立する」という目標を掲げ、これを目指すことで未来を明るく照らす道筋を示された。優れた「効率」を誇る日本のモノ作りの技術を世界に普及させていくことで、途上国の発展に伴い人工物の数は増しても、省エネ・低炭素排出を充分に実現可能であることを示された。

 今後は、これまでの人工物普及型需要は飽和し、新たに生まれる創造型需要が育っていくことが予想され、中でもグリーン産業、シルバー産業の分野で日本が世界に勝っていく必要があること、そして先進国は多くの課題を抱えながらも「課題解決先進国」となって新しい社会を作り上げていくべきであると提案された。


 

 昼食の時間を挟み、午後一番目の講演では、元郵政省出身で日本のマルチメディア推進に携わり、国際IT財団専務理事/事務局長を兼務される中村伊知哉氏が、日本のメディア・コンテンツの変遷と特異性・独自性を語られた。

 かつてメディアと通信の融合を進め、アメリカが主導していたICT、マルチメディアは、今や「ユーザ」が先導する時代となり、日本も世界に冠たる情報発信社会として台頭してきていることが紹介された。折しもテレビ電波のデジタル化が進み、放送電波の帯域が規制緩和により開放され、今後幅広くマルチメディアに利用されていくであろうと示された。放送電波を通信に利用する新しいビジネスモデルが期待されているという。

 また、新しいメディアの核となるのはコンテンツであり、アナログからデジタルへ、またネットワークでの流通へとその形態も進化している。一方、コンテンツ制作は日本が得意とするところであるとし、デジタルメディアを操り、コンテンツを作り表現する技術に日本人は自然に慣れ親しんでいると語られた。 

 マルチメディア、コンテンツの10年の変遷を俯瞰し、この中で日本が独自の考え方・感性を活かしていける「コンテンツ」作成能力を世界に対してビジネス等に活かさない手は無いと述べた。


 
〜京都花街/舞妓はんの育成と一見さんお断りに学ぶ〜


 続いては、「京都花街の経営学」などの著者であり、経営組織論や人材育成を専門とされる京都女子大学現代社会学部准教授・西尾久美子氏が、清楚な和服姿で壇上に上がられた。

 日本の伝統産業であり、きめ細やかなサービスが売りである「京都花街」を題材として取り上げてその独特な人材育成の仕組み、競争と協業のシステムをわかりやすく説明され、この伝統産業が驚くほど効率的なビジネスモデルを形成していることを紹介された。

 まずは、知られざる花街についての概要を詳細に説明された。舞妓さんとしてこの道を志したティーンエイジャーを1年でお座敷に出していけるための教育体制や技能を磨くための仕組み、髪型や衣装で芸暦・職能がわかる仕組み、お座敷の場を提供する「お茶屋」さんと舞妓さん・芸妓さんを提供する「置屋」さんとの分業体制の仕組み、厳しい評価と情報管理によるサービス品質の維持と顧客管理の仕組みなど、華やかな姿の裏にある非常に合理的・効率的なビジネスモデルの存在を紹介された。

 350年も続くこの伝統産業が、様々な危機を乗り越えながらも独自の合理性に基づきサービス提供を続けられてきた裏には、日本の小規模事業者が参考とすべきビジネスモデルのヒントが多く存在するように感じられた。


 

 次の講演者は、iPhoneを片手にプレゼンテーションを行った、フリーITジャーナリストの林信行氏であった。始めに、Apple社のスティーブ・ジョブズCEOの次の言葉が紹介された。

 「時折、革新的な製品が登場し、すべてを変えてしまう」

 林氏は、AppleのiPhone は、まさに携帯電話業界、ゲーム業界、メディア業界など様々な業界を巻き込んで「リセット」してしまうボタンであった、と語られた。

 これまで、携帯電話メーカはキャリアに対して製品を販売するビジネスモデルを採り、いわば顧客の方を向いていないキャリア主導であったが、iPhone は顧客主導の商品であり、キャリアと携帯電話メーカの関係を根本から変えてしまった。Appleは顧客の満足度を高める商品を目指し、また自らコンテンツ販売を行うことでキャリアに依存せず顧客から料金を徴収し利益を産み続けるビジネスモデルを構築した。

 このビジネスモデルをより詳細に見ていくと、非常に柔軟で特異なものであることがわかる。即ち、直営店での顧客ニーズのフィードバック、世界88カ国での販売、部品単価は安くとも優れたOSによる操作性の確保等である。ソフトウェアやデザインに大金を投資しても、優れた商品を開発し、これを世界中で大量に販売することで、数の理論により単価を限りなくゼロに近づけることができる。また、アプリケーション、音楽、動画等をネットワーク経由で販売することで物流コストをゼロに近づけることができるという。

 林氏は、Appleのビジネスモデルと比較し、日本のメーカはソフトウェアの重要性を見抜けなかった、と指摘した。現在、様々な企業がこの iPhone、iPad 等のプラットフォームに向けた商品を開発しているが、ここが、小さな企業でも個人でも、爆発的な成功を得る可能性を秘める場の一つとなっている。


 

 続いて、アメリカのIT企業、Evernote社のCEOである Phil Libin氏が登壇し、逐次通訳にてプレゼンテーションが行われた。不勉強にも、筆者は Evernote のサービスがどのようなものか当日まであまりよく知らなかったが、それが革新的なサービスであることは、Phil氏が示す数々のデータが物語っていた。

 まず初めに示されたのは、これまでのビジネスモデルで必要とされてきた「希少性」についての考えであった。入手しにくいからこそ、購買意欲が掻き立てられるというのが希少性であるが、デジタル化が進む現代ではコピーにより誰にでも行き渡る手段が整っており、伝統的なビジネスモデルにとっての脅威になっているという。希少性が薄れゆく時代に、人は何に対して対価を払うのかという点について、Phil氏は「”Love” である」と指摘した。

 次いで、商品やサービスの価値の時間変化を示す3つのグラフが示された。1つ目は従来のモデルで、買ったときから時間が経つにつれ商品価値が低減するもの、2つ目は時間の経過による価値の変化が無いもの、3つ目は時間と共に、つまり使えば使うほど価値が上がっていくものとした。Evernote のビジネスモデルは3つ目に相当するという。

 Phil氏は、Evernoteサービス利用者の動向について実データを用いて説明し、無料サービスの利用者はある割合でサービスを長期的に利用するユーザとなること、長期ユーザはある割合で有料サービスに転換することを示した。まさに、利用者がサービスを利用し続けることで「Love」を感じ、手放せなくなることが判った。

 デジタル化の新たな時代に、希少性に頼らず、顧客の心を掴み、愛されるサービスを提供するというビジネスモデルの成功例を見ることが出来た。




 最後の講演は、米シリコンバレーで起業家或いは起業支援者として活躍している外村仁氏によるもので、刺激と感激に満ちた場所であるというシリコンバレーから見た創造性と個人力の重要性について語られた。今まで無かったモノやサービスがこの10年の短期間に立ち上がってきており、ハードウェアとサービスが融合して提供され、一つのサービスと多くの企業の関係、会社と個人とのあり方なども大きく変わってきたという。

 外村氏は、海外からの視点で今の日本の社会人を見て思うこととして、自分で自社製品を使っておらず製品への愛が無い、話が「〜べき」で語られ「〜したい」という意思が無い、メールを多用し直接の交渉を避けている、説明が冗長で話が進まず、意思決定のスピードが遅いことなどを例として挙げた。

 このような認識の上で、日本の経営者には発想の転換が必要だとして、以下を提言された。

 即ち、プロセスマネジメントから新しいものは生まれないこと、ユーザニーズに合わせた柔軟な対応が必要であること、イノベーションを起こし産業を変えるのは会社ではなく「人」であり、人の気持ちを動かさずして提携も協業もできないことを述べ、ここでも「個人」のエンパワーメントが何より大事であると語った。


パネルディスカッション
  

      

 全講演を終え、しばしの休憩の後、「ビジネスモデルを語る」と題したパネルディスカッションが開催された。

 松島会長により、本日の講演から出たキーワードとして、「Love」と「個人」そして「〜したい、で語る」が重要ではないか、ということが挙げられた。これらを踏まえ、パネラーの方々からは次のようなコメントが寄せられた。

 森先生は、革新的なサービスは、技術の進化、環境の進化から生まれること、そしてスピードが大切であるとし、知識はあるが組織の中ではなかなか行動を起こさない個人の問題を指摘しつつ、技術を読んで風を読み、少しの工夫を加えて日本を変えていくアクションを起こそう!と提起された。

 北先生は、本日の講演でビジネスのあり方について考えさせられたとして、日本では「仕掛け」についての議論が先にあり、個人としての「〜したい」の考えが表にでにくい状況にあるのではと指摘された。松島会長はこれを「先回り心配症/先回り絶望症」と名づけ、これらを排除していこうと投げかけた。

 西尾先生は、京都花街の仕組みはルールに合理性があり、個人の評価がオープンであることが個人の頑張りに繋がっているとして、これが今の日本の会社の中に欠けているものではないかと指摘した。松島会長は、京都花街のビジネスモデルがシンプルで明快であり、イノベーティブであるとコメントされた。

 また、西尾先生は起業を目指している若者に向け、周囲に感謝を伝えることの重要さとともに、魔法の言葉「おおきに(感謝を言葉で伝える)/すんません(失敗したら謝る)/おたのもうします(至らぬ点をチェックして下さい)」を紹介した。

 外村氏は、「〜べき」で語ることは楽である、とし、大きな意見として扱われる安心感に浸り、周囲との比較を常に考える日本人と、自分の意見を「〜したい」で語るアメリカの環境を比較した上で、これからは日本も組織の中の個人、もっと個を出していくべきではないかと語った。

 また、起業を目指している若者に向けて、「起業したい」と、起業を目的とするのではなく、自分が「何をしたい」か、突き詰めていくことが大事であり、そのためには刺激となる人が集まる良い場所をみつけていく、作っていくことが良いと回答した。

 
 以上、朝10時の開演から約8時間に渡り開催されたビジネスモデル学会の10周年記念大会であるが、いずれの講演もグッと心惹かれ、納得し、また考えさせられる内容であり、時が経つのを忘れられるほどであった。願わくは、この「知のシャワー」をもっと浴びていたいと思われたが、ついに学会運営委員会代表幹事・森先生の閉会挨拶の時間を迎えた。

 本日の講演者の方々が、限られた時間の中で語られた内容は、時代の先端にいるからこそ実感されることかもしれないが、この「知のシャワー」を浴び、目の覚める気持ちになったのは私だけではなかろうと思う。今後次なる一歩を踏み出すのは聴講した我々なのだという思いを胸に、会場を後にした。

      
中谷実行委員長(中)と出口所長(右)|熱心に聴く来場者の方々|会場受付の一幕|Evernote社のCEO、Phil氏(中)と松島会長

2010年10月06日|文責: 藤田岳人|写真: Mr. CK



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